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2011年04月03日

子どものネット利用−現状と課題− 〜寄稿していただきました〜

千葉大学教育学部の藤川大祐教授に、「こどものネット利用」についての現状分析と課題について書いていただきました。

 

ネットからこどもを引き離せば終わりではありません。
インターネットがもはや必要不可欠なインフラとして機能している以上、適切な教育が必要不可欠です。
ぜひご覧くださいませ。

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子どものネット利用−現状と課題−


1 子どものネット利用の状況

1999年にNTTドコモが「iモード」サービスを開始し、2001年に当時のJフォンが「写メール」サービスを開始して以降、18際未満の子どもたちの携帯電話利用が増えています。
内閣府による「青少年のインターネット利用環境実態調査」(2011年2月)によれば、携帯電話を持っていると答えた者の割合は、小学生で20.9%、中学生で49.3%、高校生で97.1%です。
自分専用のパソコンを持っている者が少ないこともあり(小中高すべてで6.6%)、子どものネット利用の主役は携帯電話となっています。

子どもたちは友人とメールを交換したり、匿名でコミュニティサイトを利用してさまざまな人々と交流したり、自らのプロフィールページやホームページを公開したりと、さまざまな形でネットを利用しています。


子どものネット利用に関しては、事件やトラブルに発展することが問題となっています。
まず、子どもが児童買春、淫行、児童ポルノ等の福祉犯の被害に遭うことがあります。こうした犯罪はネットの普及以前にも街頭での声かけやテレホンクラブ等によって生じており、現在でもネットと無関係に生じている事件が多くあります(平成21年版青少年白書 では平成20年=2008年の被害者数は7014名で、5000名以上はネットとは無関係の被害だと推測されます)。
他方、ネットが普及して以降、「出会い系サイト」をめぐる犯罪が増え、2008年には出会い系サイト規制法が改正されて、利用者の年齢確認が必須となり、「出会い系サイト」をめぐる福祉犯は減少しています。現在では、「非出会い系サイト」、すなわち一般のコミュニティサイト(双方向の交流ができるサイト)での福祉犯被害が多くなっています。

次に、ネットいじめや学校間抗争といった問題があります。
メールやサイトで悪口を書いたり、他人になりすましてプロフィールサイトに書き込みをしたりするネットいじめは、中高生のいじめの1割〜2割程度を占めるようになっています(文部科学省「平成21年度生徒指導上の諸問題に関する調査」 )。
中学生が学校名等がわかる状態でプロフィールサイトに「喧嘩上等」などと書いた書き込みを他校の生徒が見たことがきっかけで、学校間抗争が勃発することもあります。

他にも、チェーンメールがまわったり、「無料」をうたうサイトで料金を請求する詐欺の被害に遭ったり、殺人予告をサイトに書いた子どもがいたりと、さまざまな犯罪・トラブルが生じています。

さらに、子どもの生活習慣や人間関係にかかわる問題も懸念されます。
メールを早く返さなければいけないという強迫観念から友達とのメールがやめられなくなったり、コミュニティサイトでの交流から抜け出せなくなったりといった依存傾向を示す子どもは珍しくありません。当然、睡眠不足になったり、家族との会話や勉強の時間が削られてしまったりすることにつながります。
また、常に誰かとつながって同調し続けることのストレスが大きい場合もあり、子どもたちの抑うつ傾向とのつながりも懸念されます。


ネットを利用する子どもの多くは、大きな問題なく、適切にネットを利用しています。
さらには、各界で活躍している人とネットを通してかかわったことがきっかけで、ビジネスや社会貢献の活動を始めたり、進路選択の参考にしたりする中高生もいます。あらゆる子どもをネットから遠ざけることが得策というわけではありません。



2.基本的な対応

このような状況の中、子どものネット利用に関しては誰がどのような取り組みを進めるべきでしょうか。


基本的な考え方としては、子どものネット利用を制限する方向での取り組みと、子どもが適切にネットを利用できる能力(メディアリテラシー)を育成する方向での取り組みとを、さまざまな主体が連携して進める必要があります。
子どもが幼い段階では利用制限を中心とし、徐々に教育の比率を高めていくことが求められます。

ネット利用制限の取り組みの中心は、携帯電話会社が提供するフィルタリングです。
フィルタリングとは、青少年にふさわしくないサイトへのアクセスをさせない機能のことです。基本的に「ホワイトリスト」(あらかじめ決められたサイトにしかアクセスできない)と「ブラックリスト」(あらかじめ決められた種類のサイトにアクセスできない)があり、一部の形態電話事業者はこれらに加え、「カスタマイズ」機能(特定のサイト等へのアクセスを可としたり不可としたりする)を提供しています。
2009年に施行された青少年インターネット環境整備法 では、18際未満の青少年が利用する携帯電話には、保護者から不要という申し出がない限りフィルタリングを提供することが事業者に義務づけられています。

前出の内閣府調査 (保護者対象)によれば、フィルタリング(インターネット利用不可も含む)の利用率は小学生(10歳以上)77.6%、中学生67.1%、高校生49.3%。以前に比べれば利用率は向上しているものの、さらに普及させることが求められます。
警察庁の広報資料「非出会い系サイトに起因する児童被害の事犯に係る調査分析について」(2011年10月) によれば、非出会い系サイトに関係して福祉犯被害に遭った18際未満の青少年の98.5%がフィルタリングに加入していないことを見ても、フィルタリングの普及は重要な課題です。

他方、教育としては学校教育における対応が基本となります。
小学校で2011年度から、中学校で2012年度から、高校で2013年度から、新しい学習指導要領が施行されます。新しい学習指導要領においては、情報モラル教育の充実がはかられており、各教科、総合的な学習の時間、道徳等で各学校が体系的に情報モラル教育を進めることが定められています(文部科学省「教育の情報科に関する手引」検討案第5章  参照)。



3.今後の課題

青少年インターネット環境整備法には施行から3年後の見直しが定められており、現在、内閣府、総務省、文部科学省、経済産業省、警察庁等が連携して見直しに向けた検討を進めています。
こうした中で議論されていることも含め、私なりに今後の課題を列挙してみます。


・スマートフォンが急速に普及しており(前出の内閣府調査では2010年秋時点で中学生2.6%、高校生3.9%が利用 )、スマートフォンからのネット利用が今後増えていくことが予想されます。
、無線LANでフィルタリングが機能しないスマートフォンが多い、フィルタリングの設定が複雑すぎる、アプリからの接続ではフィルタリングが機能しない場合がある等の課題が生じている。
・ゲーム機や音楽プレイヤー等でのネット利用も増えており、こうした機器ではフィルタリングが使われないことが多い。
・石川県が条例で小中学生に携帯電話を持たせないことを保護者に求める等、地方自治体が青少年インターネット環境整備法と矛盾する施策をとることが出てきている。
・学校が多忙化する中、情報モラル教育への取り組みが十分になされていない学校が多い恐れがある。


2011年3月に発生した東日本大震災では、テレビが伝えない情報をネットが伝えていたり、ネットでデマ情報が流れたり、緊急地震速報や災害時伝言板が活用されたりと、携帯電話やインターネットの利用がさまざまな形で注目されました。
状況が多様で非常に広い被災地を支援するために、情報による支援も重要な課題となっています。
今後私たちは、震災後の経験をふまえて、子どものネット利用のあり方をさらに検討していくことが必要です。


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千葉大学教育学部教授 藤川大祐
ブログ http://dfujikawa.cocolog-nifty.com/jugyo/


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