金沢市視察民主党渋谷区支部大会

2005年04月23日

サンプル記事

「東京ペディア」にて目黒の土屋区議から新作レポートが届きました!

なかなかの提言なので、以下転載します。

-----------------------------

保育行政の課題と対応策について

保育行政とは

児童福祉は社会福祉の一分野となる。日本の社会福祉は終戦後、生活困窮者の救済を中心として始まった。これに先駆け、戦災孤児・保護者が貧困等で十分な保育が受けられない児童への対応が必要として、昭和22年、児童福祉法が制定され、その後昭和26年、社会福祉の基本的な法律となる社会福祉法が制定された。

児童福祉法は「保育に欠ける児童の措置施設」であった託児所を保育所として、保育に欠ける児童の保育を行う施設と定めた。その後、少子高齢化の進展など、社会的な変化によって福祉が特別な人のための制度ではなく、一般的なサービスとして利用されるようになった。そのため法律でも従来の措置は一部残しつつ、基本は契約という考え方を導入し、利用者に選択させる形に移り変わってきた。

社会福祉の中でも高齢者福祉は昭和38年に老人福祉法が制定され、平成12年に介護保険制度が設立された。保険制度で利用者が選択するサービスへの転換が図られている。社会福祉先進国といわれる北欧各国でも、施設による措置行為は幸せな生活といえるかという論議も進み、自宅(持ち家)でなるべく健康で過ごせる政策が推し進められているのは周知のとおりである。

一方、児童福祉は、制定当初の考え方がそのまま残されており、契約という考え方を導入しただけで、児童福祉サービスとしての推進を図る対応がなされていなかった。これが現状の保育行政が抱える大きな問題の根幹となっている。

保育行政の課題

制度は1947年に定められているが、現在は2009年である。62年が経過しているわけだから、実質的な問題が生じるのは当然である。

利用者は一般行政サービスと認識しているが、児童福祉法にある「児童の健全育成」「保護者の保育責任」の観点から、高齢者福祉のような行政サービスから保険サービスへの転換が行いづらいという側面がある。

一方、次世代育成支援対策推進法が平成17年に制定された。ワークライフバランスの問題が重視され、従業員の仕事と家庭の両立支援を事業者に義務付けてもいる。しかしこれも昨今の経済情勢下でどこまで対応できるかという点に疑問が残るが、それらを踏まえると以下のような課題が明確になる。

  • 1.行政サービスのひとつとして保育を充実させるには運営管理の経費負担が問題となる。とくに0歳から3歳までの保育単価は工学で、かつ利用者は全対象年齢児童の25%でしかない。
  • 2.事業者によるワークライフバランス対策遅々として進まず、行政サービスに依存する構造が変化していない。
  • 3.保護者の意識変化に要因がある。
    • 3-1.従来は、働いている人が出産により保育サービスが必要となるケースが多かったが、昨今は出産後に働きたいので保育サービスを必要とするケースが加わっている。
    • 3-2.自分で保育する場合の負担感が強い。
    • 3-3.かつては子育てを人にしてもらうにはお金がかかる意識があり、ベビーシッターや家政婦を利用するお金持ちのものだった。今は比較的利用しやすい料金で子育てを施設に任せることができるため、子育てにお金がかかるという意識が少ない。

課題解決への考察

課題で上げた「行政視点」「事業者視点」「保護者視点」の三者三様の視点を統一して落としどころを探ることが必要となる。理想論で言うならば協働といわれる、各人が各人の役割を明確に理解した上で、義務と責任を負うことが重要となる。しかしこのハードルは高い。

  • 行政の責務:

保育に欠ける児童への対応という法制度から脱却できていないことから、法律改正による保育サービスというものの規定が必要となる。現状の法制度化では、あくまで一般利用者向けのサービスという視点での運用は、厳正なコンプライアンスを行うならば脱法的行為になる。本当に困っているレベルが生死の領域であった時代の「保育に欠ける児童」と、現代の保護者が仕事で忙しくて保育できないなどの「保育に欠ける児童」を同列に論ずるのには無理がある。

戦後の大家族制度の中では保護者側に受け止めるだけの十分なキャパシティがあった。しかし核家族化している現代において保育に欠けるという理念を、再度定義しなおさなければならない。とくに人口減少社会となっている日本では、労働人口の減少を女性の社会参加というかたちで補っている。女性が社会参画するためには安心して子供を生み育てられる環境の整備は必須である。社会全体で子育てをする環境をつくることが、今後の行政が担うべき役割と立場であろう。

  • 事業者の責務:

労働条件とリンクする問題となる。この数年は好景気であったため「復帰不安」「職場保育」「育児休業」の3点が中心であったが、昨今では「雇用不安」の領域も踏まえて問題が増加している。本来的には社員への企業内福祉の領域であるが、まずは生きていくために賃金が保証されなければならない。事業者は儲けを度外視しての社内福祉を実現することはできない。

企業経営が健全であればこそ、次世代育成支援対策推進法での事業者責務は安定して実行されるが、これから新たに推進することは経済状況的に困難でもある。またこの法律では社員300人超の企業を対象としており、中小企業においてどこまで対応できるかは甚だ疑問である。実際、中小企業事業者に社内保育所を整備するなどの余力はない。少数社員でまわしている企業で育児休暇がとれる環境を整備することの困難さは察するに余りある。

だからここは公務員など安定して育児休暇を取得できる人々が率先して育児休業を取得し、保育園の定員を圧迫しない環境を進めることが第一歩だと考える。職場復帰への不安は、リハビリ期間で吸収できるようにし、休業取得による出世・報酬などのリスクを軽減する対応を行うべきだろう。それらをモデルケースとして、さらなる事業者責務の遂行を求めていくのが現実的と考える。

  • 保護者の責務:

第一義に、子育ては保護者の責務である。親との深いふれあいやスキンシップが子どもの情操教育に有効であるのは、多くの研究者が明示している。保護者もまたできることならば子どもと一緒にいたいという声も多く聞こえてくる。しかしながら前述の行政の責務・事業者の責務が実行されていない関係から子育てと仕事の両立が困難である現状がうかがえる。

大家族制度から核家族化したことでの負担増大を、保育所が担っているのが現状の問題点のひとつとなっている。そして行政の保育サービスが、いったい一人につきいくらかかっているのかを保護者が把握していない実情もある。たとえば0歳児であれば一人につき月額50万円以上の税金が投入されている。入所している親の負担は2・3万円であり、実際に預けられた保護者と、預けられなかった保護者とを考えるならば、行政で行うサービスとしては公平性に欠けるといわざるを得ない。この現実的な問題を保護者に理解させる努力をしなければならない。単純に金額を見て、精神的な負担を背負う度合いと、お金を支払うことで子育てを代行してもらえる保育サービスとを比較するならば、保護者視点ではサービスという商品への代価になりがちだが、子ども視点ではいかがなものかと考えざるを得ない。

これらを補完するために役立ち、保護者の責務を保護者が遂行しやすくするためには、地域コミュニティの活性化と、保護者への動機付けが必要となるだろう。欧米各国では小規模の保育所では、保護者に週1・2回のボランティアでの育児参加を条件に他の日を預かるような制度もある。地域に根ざした保育所自体が、保育事業者と保護者の協力によって成り立つ協働施設として発展するならば、それは保護者への子育て教育にもつながるうえに子どもとのふれあい時間も増やせるという施策に転化しうるのではないだろうか。


現状での解決案

法整備が整わず、事業者の協力も少なく、保護者の理解も薄い。この状況で保育サービスの整備が進まないのは至極当然だといえる。しかしながら時間は進んでおり、解決を進めなければならないのならば、議員が率先して進めるべき解決策は大きく3点に集約されるのではないかと考える。

  • 1.行政機関における意識改革
    • (1)現代における子育ては、生命的に問題が生じる保育に欠ける児童以外においては行政一般サービスのひとつとなった。その中で利用者である保護者目線での問題解決に留意していく必要がある。例えば保育園の分園制度推進により、事務機能を統一したままで保育施設を増加させるような方策が国からも打ち出されている。これを、あらゆる施設で活用できるように進めることで、施設建設に拠らないでできる待機児童解消策を十分に進めていく必要がある。
    • (2)東京都が進める認証保育所では、新設時には補助金を出すが、人数拡大時には補助金を出さず、さらに分園制度も許可していない。実際にはもう少し預かれるにもかかわらず、行政指導を避けるためだけに4月の定員と5月の入園児童数が異なるという事例も多数見受けられる。試算したところ、4月入園数と5月入園数においては、23区内で試算しても1000名余の差があり、制度不備によって待機児童が生じている事実を認め、補助制度の改善を行わなければならない。
    • (3)また、定員数が増えると、ひとりあたりの補助額を削減する制度になっている。例えば30人以下の定員とそれを超える定員では、0歳児への補助額が一人当たり2万円減額される。32名の定員に増やすと人数全体の補助単価が下がるという異例の制度である。定員が増えればスケールメリットが働くと東京都は主張するが、都会のビルにおいて違う階にいれば違う職員を配置せねばならないことも考えれば、スケールメリットは平面での施設以外には生じずらく、合理的とはいえないため定員増のために改善しなければならない。

 

  • 2.公的事業者(行政機関)職員への職場復帰対策
    • (1)現在の認可保育園には共働き公務員家庭の児童が多数在籍している。しかしながら公務員には明確な育児休業制度があり、育児休業をとりやすい環境を整備しさえすれば、少なくとも今より長い育児休業を取得してもらえるのではないかと考える。そしてその結果、空いた枠に待機児童が入れる環境を用意できるだろう。そのためには、職場復帰不安を解消する必要がある。
    • (2)復帰リハビリ制度の整備として、短時間勤務や半日勤務による仕事へのリハビリと子育て支援を両立する制度をさらに進める。
    • (3)育児休業取得を女性だけでなく男性にまで広げることも目指し、育児休業取得による生涯報酬の変動を軽減する方策を検討する。
  • 3.保護者への対策(育児不安解消・子育て支援・公平な負担)
    • (1)育児不安解消により、できるかぎり保護者が育児を行いたくなる環境を整備することが、第一義である保護者が子育てを担う環境を整備するための第一歩である。より多くの、同じ立場の保護者が交流できる施策を推進しなければならない。例えば、保育園にはPTAに類するものがあまり存在しない。それは預ける家庭の大半が共働きということもあり負担を厭うことも一因である。しかしながら保護者同士が接触して影響しあうことは、結果として子どもたちとのふれあいが増すものであるのは疑い得ない。保護者個人と保育士個人という信頼関係から、保護者たちと保育士たちという信頼関係に広げることで、全体的な保育キャパシティを高めることを目指すべきである。
    • (2)子育ての経験者である高齢者とのふれあいをすすめることも、ひとつの方策となる。時には一時的に預けられるくらいの信頼関係を地域で構築することができるのであれば、コミュニティが活性化すると同時に、地域で子どもを育てる環境が進むことになる。
    • (3)保育は無料のサービスではない。保育というサービスが、単価としていったいいくらで行われているものであるのかという共通理解を進め、実質的に生活不安の少ない家庭や高額所得家庭に対しては、適正な価格が提示できる保育料の設定が必要である。現状では入ったもの勝ちであり、措置であるため既得権的に扱われるのが保育園の入園となっている。これをサービスとして理解してもらい、適正価格での提供をすすめる必要がある。また、保育料の滞納対策としては、保育園に対して直接納付する方法を導入することで、滞納者の減少を図れると考える。


まとめ

少子高齢化社会の進行、人口減少の現状、経済状況の悪化などから鑑みるに、待機児童の増加は必然である。この状況は、長期的な解決と短期的な解決を同時に進めることでしか解消し得ない。国と地方が一体となって子育てや教育が未来への投資だという現実を認識し、第一の施策として進めていかねばならない。

現在の行政機関は、待機児童数を認可保育園で順序待ちしている人数のカウントで行っている。しかし現実は、無認可保育所に入れて苦労しながら働いているような家庭も多く、実質的な保育料の平均化が必要であるが、社会保険庁の徴収率水増しにも似た待機児童数の実数に一致しない公式見解を出し、その結果として待機児童は年々増加していくという悪循環が生じている。現実の「保育サービスを必要としている人の実数」を把握する努力がなければ今後の状況は好転しないだろう。

また認可保育園に入った特権階級と入れなかった一般家庭ともいえる現状の保育料設定は、行政が目指すべき住民全体への公平なサービス提供から遠ざかっている。「保育はサービスである」と認識しなければならない。そしてあらゆる利用者が区別なく、適正な負担で同様のサービスを利用できる環境を整備していかねばならない。


-----------------------------

なるほど、歴史的経緯をそのままに保育制度が成り立っているところが根本的な問題であるという指摘です。「保育に欠ける」の再定義が必要というところはその通り。

さらに、保育コストが明示されていないために大きな不公平が存在しているといのも、その通りですね。

 

極めて現実的に内容を検討し、取りうる選択肢を明示している。素晴らしいレポートであると思います。勉強させていただきます!



このエントリーをはてなブックマークに追加
kenposzk at 06:26│TrackBack(0)書評・資料 

トラックバックURL

金沢市視察民主党渋谷区支部大会